しんがきBros.

沖縄の小僧が世の中のカルチャーに関してあれこれ書きますブログ(敬愛TV Bros.)

悲しみの秘義

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「悲しみの秘義」若松英輔

この本を読む前と読んだ後では世界が少し違って見えるぐらい、ものすごく良い本です。まず、装丁が綺麗です。これ表紙がこの色以外にあと5種類ありまして、買うときに結構悩みます。僕は悲しみ=紫かなと思い、この色にしました。こういう作り手のちょっとした遊び心すごく好きです。
みんな自己啓発本とか買わないでこういう本読んだらいいのになぁって思うんですけどね。難しいですね。

さて、本の内容なんですが著者の若松さんが日経新聞に連載した25個のエッセイが収められています。
書評でも俵万智さんが書いてるんですが、若松さんは引用の達人です。宮澤賢治須賀敦子神谷美恵子ソクラテス小林秀雄石牟礼道子河合隼雄、、、あらゆる方々の言葉を引用しご自身の考えや思想を述べています。でも引用するってことは、その文章、言葉を本当に噛み砕いていないと出来ないですよね。そういうところが引用の達人と言われる所以なんでしょうね。

本の中にすごく心に突き刺さる文があったので紹介させてください。
水俣病で亡くなった坂本きよ子さんという女性の母が、作家の石牟礼道子さんに宛てた言葉です。若松さんは「少し長いが、できれば、声に出して、ゆっくり読んで頂きたい。一度ではなく二度、読んで頂きたい。」と書いています。

きよ子は手も足もよじれてきて、手足が縄のようによじれて、わが身を縛っておりましたが、見るのも辛うして。
 それがあなた、死にました年でしたが。桜の花の散ります頃に。私がちょっと留守をしとりましたら、縁側に転げ出て、縁から落ちて、地面に這うとりましたですよ。驚いて駆け寄りましたら、かなわん指で、桜の花びらば拾おうとしよりましたです。曲がった指で地面ににじりつけて、肘から血ぃ出して、「おかしゃん、はなば」ちゅうて、花びらば指すとですもんね。花もあなた、かわいそうに、地面ににじりつけられて。
 何の恨みも言わじゃった嫁入り前の娘が、たった一枚の桜の花びらば拾うのが、望みでした。それであなたにお願いですが。文ば、チッソの方々に、書いて下さいませんか。いや、世間の方々に。桜の時期に、花びらば一枚、きよ子のかわりに、拾うてやっては下さいませんでしょうか。花の供養に。

偽善者とか言われるかもしれないですけど、僕は何度も読み返しては涙を流しました。この文を打っている今も泣きそうです。突き刺さります。
忘れたくないです。こういう人が居たこと、この文章、言葉が持つ強さ。これからも言葉とともに生きていきたいです。

この本が皆さまの目に触れますよう祈っています。